「宮中八神殿」とはなんのこっちゃ?と思われるでしょう。
ワタクシも最近まで耳にしたことがございませんでした。
(そんな言葉口にするヤツなんていねーよって?)
「(宮中)八神殿」
平安京大内裏中では、神祇官西院において「御巫(みかんなぎ)」と称される女性神職、すなわち大御巫2人(のち3人)・座摩巫1人・御門巫1人・生島巫1人により重要な神々が奉斎されていた。
八神殿はそれらのうち大御巫(おおみかんなぎ)によって奉斎された。八神は天皇の健康に関わる重要な神々で、『延喜式』神名帳においては全国3,132座の筆頭に記載されている。 wikipedia
古図によると、八神殿は各神を祀る社殿がそれぞれ独立しており、神祇官西院の西壁に沿って東面した社殿八宇が南北に並んだ wikipedia
『大内裏図考証』の八神殿全図
とまあ、要は平安京の内裏に祀られていた「天皇守護の八神を祀る神殿である」ということなんです。
参考「明治神祇官 神殿」図
で、祀られる神は以下の通り『延喜式』と『古語拾遺』で表記が少し違うとのことです。
『延喜式』 『古語拾遺』 読み
第一殿 神産日神 神皇産霊神 かみむすびのかみ
第二殿 高御産日神 高皇産霊神 たかみむすびのかみ
第三殿 玉積産日神 魂留産霊 たまつめむすびのかみ
第四殿 生産日神 生産霊 いくむすびのかみ
第五殿 足産日神 足産霊 たるむすびのかみ
第六殿 大宮売神 大宮売神 おおみやのめのかみ
第七殿 御食津神 御膳神 みけつかみ
第八殿 事代主神 事代主神 ことしろぬしのかみ
「延喜式」の画像を出しておきます。
さて、今回注目したいのが第六殿「大宮売神(おおみやのめのかみ)」。
別名
大宮乃売(おおみやのめ)
大宮能賣神(おおみやのめのかみ)
大宮比売命(おおみやひめのみこと)
宮比神(みやひのかみ)
などともと呼ばれ、『古語拾遺』によると、太玉命の御子神であり、神武天皇が即位の時、天照大御神と高皇産霊尊の勅に従って、 神籬を建てて祀った八神の中に一柱。後に宮中神祇官の八神殿において御巫に齋き祀られている。
古語拾遺のこの部分などに記載されております。
於是 從思兼神議 令石凝姥神鑄日像之鏡 初度所鑄 少不合意 【是 紀伊國日前神也】 次度所鑄 其状美麗 【是 伊勢大神也】 儲備既畢 具如所謀 爾乃 太玉命 以廣厚稱詞啓曰 吾之所捧寶鏡明麗 恰如汝命 乞 開戸而御覽焉 仍 太玉命天兒屋命 共致其祈焉 于時 天照大神 中心獨謂 比吾幽居 天下悉闇 群神何由如此之歌樂 聊開戸而窺之 爰 令天手力雄神引啓其扉 遷座新殿 則 天兒屋命太玉命 以日御綱 【今 斯利久迷繩 是 日影之像也】 迴懸其殿 令大宮賣神侍於御前 【是 太玉命 久志備所生神 如今世内侍善言美詞 和君臣間 令宸襟悅懌也】 令豐磐間戸命櫛磐間戸命二神守衛殿門 【是 並太玉命之子也】
画像は「古語拾遺」より
天照大御神に仕えていた神であるとも言えます。
また、
稲荷大神三座の一座として祀られることが多く、 さらに、同じく稲荷三座の一座である佐田彦大神を猿田彦と考えて、 大宮売神を、猿田彦命の妻で天の岩戸神話に登場する天宇受売命の別名という説がある。
「玄松子の記憶」より
であり、
京都の伏見稲荷大社に主祭神宇迦之御魂神に付き従うようにして祀られている。そこから、もともとは宇迦之御魂神(稲荷神)を祀る巫女だったが、のちに神格化されて大宮能売神と呼ばれる神になり、市の守り神として信仰されるようになったと考えられている。穀物神に仕える巫女から発展したこの女神は、宮廷祭祀と深く関係しており、宮廷の中に祭られている八神殿に食物神の御食津神(ミケツノカミ)と並んで祀られていた。その役割は、天皇が神に供える神饌を扱うというものだ。神饌とはつまり、天照大神への供え物である。そこから、大宮能売神は天照大神に仕えて、人間との間をうまく取り持つ神としての役割ももっているという説もある。
そういう重要な役割を持ちながら「古語拾遺」にしか登場しない、つまり「忌部」の伝承でしか「大宮売神」と呼ばれていない神なのです。
この(忌部の)神が、平安京より宮中に祀られておりましたが、応仁の乱で焼失してからは再建されず、江戸時代に吉田家が吉田神社境内に、白川家が邸内にそれぞれ八神殿と称するものを建て、宮中の八神殿の代替としていました。
明治以後は神殿(宮中三殿の1つ)に継承されている
神殿
天神地祇を祀る。
明治に再興された神祇官(のち神祇省)が附属の神殿を創建し、天神地祇および律令制での神祇官の八神殿の八神を祀った。明治5年、神祇省の祭祀は宮中に移され、八神殿は宮中に遷座し、八神を天神地祇に合祀して神殿と改称。
つまり、今尚宮中において、この「大宮売神」は祀られているのです。
祀られている神社などを挙げてみますと
伏見稲荷大社 京都府京都市伏見区深草藪ノ内町
諏訪大社下社秋宮 境内 稲荷社 長野県諏訪郡下諏訪町5828
北野天満宮 境内 稲荷社 京都府京都市上京区馬喰町
大宮姫命稲荷神社 京都府京都市上京区主税町
天太玉命神社 奈良県橿原市忌部町字一ノ道152
石上神宮 境内 七座社 奈良県天理市布留町384
宇奈多理坐高御魂神社 境内 大宮媛社 奈良県奈良市法華寺町600
厳島神社 広島県廿日市市宮島町1-1
そして
大宮売神社(おおみやめじんじゃ) 京都府京丹後市大宮町周枳(すき)
があります。
この神社の御祭神を見ていただければ分かりやすいのではないでしょうか。
天照大神に仕え天皇を守護する八神の一柱であり、織物と酒造を司る大宮売神(おおみやめのかみ)、食物・穀物を司る女神である若宮売神(わかみやめのかみ、豊受大神)の二神を祀る。wikipedia
ああ、「豊受大神」。
ここまで書けば分かってもらえる方々を数人知っています(笑)
摂末社を見ても
大歳神社(大歳命、御年命)
武大神社(素戔嗚命)
大川神社(保食命)
秋葉神社(訶具土命)
稲荷神社(倉稲魂命)
佐田彦神社(猿田彦命、事代主命)
三社の社
天照皇神社(天照大神)
春日神社(天児屋根命)
八幡神社(誉田別命)
天満神社(菅原道真)
と、阿波を知る人間ならば、頷ける御祭神ばかりでしょう。
では、阿波には「大宮売神(おおみやのめのかみ)」を祀る神社は無いのか?
そう仰いますか?
ある「らしい」のです。
京都押小路家所蔵の延喜式神名帳の注記部分に祭神「大宮売神(おおみやのめのかみ)」と記されている神社が。
「天石門別 八倉比売神社」
が「それ」なのです。
また、「天照大神の尊称である」とも記されているそうなのですが、残念ながら原典は今の所確認できておりません。
相当探したのですが、未だ不明です。
その代わり、傍証と言ってはナンですが、「宮中八神殿」を祭祀する大御巫(おおみかんなぎ)についての資料を出しておきます。
「令集解」職員令神祇官条より
(令集解(りょうのしゅうげ)は、9世紀前半(868年頃)に編纂された養老令の注釈書、ただし養老令の発布は757年)
ここに「倭国巫」二口(二人)とあります。
これが何かって?
「令集解」別の部分を見てください。
「大倭」と「倭國」はちゃんと区別して記載されています。
「大倭」は無論「奈良」、では「倭國」は?
そうです、あなたの思った通りなのです。
何故か?
それは「大宮売神(おおみやのめのかみ)」こと「豊受大神」が「天石門別 八倉比売神社」の御祭神であるからなのです。
最後に....
これは「仮説」ね(笑)
あ、折角なので、古語拾遺斎部広成著 写本 阿波国文庫・不忍文庫旧蔵本の画像があったので掲示しておきます。
國學院大学、こんなの隠してるんですから(笑)